朝が来る/辻村深月【読書ログ・感想】家族について考えるきっかけになるお話。
私は辻村深月さんの小説全般が好きです。
一番最初に読んだのは「凍りのくじら」でした。
ドラえもん要素がちりばめられた、スコシ・ナントカなお話。
とても面白くて、それから辻村さんの小説を少しずつ読むようになりました。
この間本屋さんに行ったら辻村さんコーナーの中にまだ読んだことのない小説が平積みされていたので買ってきました。
もともとは「別冊文藝春秋」の2014年1月号から2015年3月号で連載されていたものだそうです。
文庫が出たのは2018年。
特別養子縁組という形で子供を授かった一組の夫婦とその生みの親である少女の物語です。
途中切なくもどかしくなるところもあるのだけれど、結局はみんな子供のことが大切で、ちょっと涙がこぼれながら幸せな気分で読み終わる、そんなお話でした。
概要 血のつながりと家族と
この本は4つの章から成り立っています。
第1章は幸せな夫婦と6歳の子供の現在。
そこに起こる非日常の出来事。
第2章は夫婦がそこに至るまでの過去のお話。
第3章は一人の少女が子供を妊娠し、出産、手放し。
その後壁にぶつかりまくりながらゆらゆらと揺れ動き、そして再び自分が産んだ子供を引き取った夫婦に会うまで。
第4章は夫婦、子供、そして少女が再会して紡ぐ物語。
家族の多様性は最近よく話題に挙がっているように感じる。
そんな多様性のひとつに、養子縁組もあるのだと思う。
いいとかわるいとか、そういうことではなくて家族の一つの形として。
養子だから子供を愛せないとかそういうことはないのだと、
実際に実子だって虐待だなんだと暗いニュースが毎日のように流れている昨今、
気づかせてくれる。
実際に、子供を手放すことになった少女の方は、実の両親とあまり上手くいっていなかった。
そんな少女をも包み込んでくれるのは血のつながりとか関係のない愛だったわけで。
血のつながりってなんだろう、家族ってなんだろうと思う。
養子縁組の説明会に夫婦が出向く場面で、実際に子供を受け入れて育てている夫婦が体験を話す場面。
うちの場合は、養子を考えた時、夫に言われた一言がきっかけになりました。血のつながりのない子どもって行っても、もともと、オレと君だって血がつながっていないけど家族になれたじゃないか。きっと大丈夫だよって。
このセリフがとても好き。
家族になるのに何か条件とか必要ないんだなと気づかせてくれる。
好きなキャラクター、大空くんのお母さん
養子として引き取られた子供、朝斗の友達に、大空(そら)くんという男の子がいます。
マンションが一緒、幼稚園も一緒の同い年で仲良し。
でもひょんなことからトラブルになってしまいます。
大空くんのお母さんは若くて茶髪の、サバサバしたお母さん。
トラブルで朝斗のお母さんを責め立てるんだけど。
解決した後に朝斗のお母さん、佐都子は振り返ります。
子ども同士のトラブルが起こっても、そこに、血のつながりやあの子が養子であることを持ち出さない大空くんママのことを、強い言葉で言い合ってさえ、その一点だけで、佐都子は心のどこかで信じていた。
ママ友がこういう人だったというのも、幸せな生活を送れていた要因の一つだろうなと思う。
言い合いになっちゃったのも、それぞれが自分の子供を信じていたから。
大空くんのママはつい子供をきつく叱っちゃったり手をあげちゃったりするところもあって、それはこのご時世を鑑みてもよくないことなんだけれど。
この小説に登場するメインキャラじゃない人物も、やっぱり子供を愛していて、その温かみをかんじられるエピソードでした。
おわりに
この後ひかりはどうなるんだろう?
家族との関係は?とか妄想するのも楽しいです。
小説は終わるけれど、現実の人生はこのあとも続いていくわけで。